Shadowsocks系のプロキシをiPhoneやiPadで使うとき、入り口は2つに分かれます。App Storeで買うサードパーティのプロキシクライアントを使うか、契約先が配っている公式アプリを使うかです。
この記事を最初に公開した2018年当時は、前者が事実上の標準でした。プロバイダーがサブスクリプションURLを配り、読者は好きなアプリにそれを流し込めばよかったからです。
その前提はすでに崩れています。契約先によっては、どのアプリを買ってもURLを読み込ませる画面自体が存在しません。ここではiOSで現役のクライアントを、対応プロトコルと入手性という2つの軸で並べ直します。
UCSSをご利用の方は、この記事のアプリ選びは不要です
UCSSは中国向けのプランでサブスクリプションURLの提供を終了しており、Shadowrocketをはじめとするサードパーティアプリでは設定できません。接続は公式アプリからのみです(グローバルエッジプランに限り、引き続きサブスクリプションURLが提供されています)。
経緯はUCSSでShadowrocketが使えない理由と対処法にまとめてあります。
UCSS公式アプリの設定手順(iPhone/iPad)を見る
iOSで現役のプロキシクライアント6本
App Storeのアプリ情報を1本ずつ照会し、現在も配信されていて更新が止まっていないものだけを残しました。価格は日本のApp Storeの表示です。
対応プロトコル早見表
| アプリ | 価格 | 主な対応プロトコル |
|---|---|---|
| Shadowrocket | 500円 | SS / SSR / VMess / VLESS(XTLS Vision)/ Trojan / Hysteria 2 / TUIC / WireGuard |
| Quantumult X | 1,500円 | SS / SSR / VMess / VLESS(Reality)/ Trojan / AnyTLS / HTTP / SOCKS5 |
| Loon | 1,300円 | SS / SSR / VMess / VLESS / Trojan / Hysteria 2 / Shadow-TLS / WireGuard |
| Stash | 1,000円 | SS / SS-2022 / SSR / VMess / VLESS / Trojan / Hysteria 2 / TUIC / WireGuard |
| sing-box MT | 無料 | SS / VMess / VLESS / Trojan / Hysteria 2 / TUIC / AnyTLS / WireGuard |
| Potatso | 無料 | SS / SSR / SOCKS / HTTP(S) |
Shadowrocketの対応プロトコルはApp Storeの更新履歴、Quantumult Xは公式が配布しているサンプル設定ファイル、LoonはApp Storeの説明文、Stashは公式ドキュメントのプロトコル一覧、sing-box MTはsing-box本体のoutbound一覧、PotatsoはApp Storeの説明文を基にしています。
6本とも中国のApp Storeでは配信されていない
上の6本について、中国のApp Storeのアプリ情報を照会すると、いずれも該当なしという結果になります。UCSSの公式アプリについても同じです。
これは中国のApple IDでは入手できないということです。中国のApple IDにサインインし直した時点で、購入済みのアプリの再ダウンロードもできなくなります。
渡航前に、日本または米国のApple IDでアプリを入手し、支払い方法まで登録を済ませておくのが確実な手順です。日本や米国のApple IDであれば中国に着いてからでも入手できますが、中国のApple IDしか無い状態では購入画面までたどり着けません。
アプリ別の短評
Shadowrocket(500円)
プロキシクライアントの事実上の標準です。iOS 13以降に対応しており、更新も途切れていません。
強いのは対応範囲の広さで、VLESSのXTLS Vision、Hysteria 2、TUIC、WireGuardに加え、Tailscale連携やOpenConnectまで抱えています。新しいプロトコルが出てきたときの追随が最も速いのがこのアプリです。
ルール記述の自由度も高い反面、設定項目が多く、初めて触ると迷います。操作はShadowrocketの操作マニュアルで個別に解説しています。
Quantumult X(1,500円)
初代Quantumultの後継です。設定を1つの設定ファイル(conf)で管理する思想が徹底されており、サーバー・ルール・書き換えをテキストで一括管理したい人に向きます。
VLESSのReality、AnyTLSまで対応していますが、Hysteria 2とTUICは公式のサンプル設定に見当たりません。UDPベースの新プロトコルを使いたいなら別のアプリになります。
Loon(1,300円)
App Storeの説明文でss / ssr / vmess / trojan / vless / hysteria2 / Shadow-TLS / WireGuardへの対応を明示しています。対応表が公開情報として最も読みやすいのがLoonです。
更新頻度も高く、プラグイン機構でスクリプトを足せます。Quantumult Xと役割が近く、好みで選ぶ領域です。
Stash(1,000円)
Clashの設定ファイルをそのまま持ち込めるのがStashです。PCやルーターでClash系の構成を組んでいる人が、同じYAMLをiPhoneでも使い回せます。
対応プロトコルは今回並べた中で最も広く、Shadowsocks 2022、Juicity、Mieru、MASQUEといった新しい系統まで含みます。iOS 16以降が必要です。
sing-box MT(無料)
sing-boxの公式iOSクライアントです。無料でVLESS、Hysteria 2、TUIC、AnyTLSまで扱えるのはこのアプリだけです。
注意点が1つあります。sing-boxの公式ドキュメントが案内しているApp Storeの配信名は「sing-box-vt」ですが、この名前では日本・米国いずれのストアでも現在ヒットしません。実際に配信されているのは、同じ公式サイトをサポートURLに設定した「sing-box MT」です。sing-box 1.14.0のリリースノートによると、Apple向けクライアントは新しい開発者アカウントへ移行し、iOS・tvOS版は「sing-box MT」としてApp Storeでの配信が再開されました。以前の「sing-box VT」を使っていた場合は、新しいアプリを入れ直す必要があります。
ダウンロードする際は、開発者名とサポートURLが公式サイトを指しているかを必ず確認してください。
Potatso(無料)
かつての「Potatso Lite」が無料の「Potatso」に統合されたものです。中国国内サイトをプロキシから外すスマートルーティングを内蔵しており、動作は軽快です。
ただし対応プロトコルはSS / SSR / SOCKS / HTTP(S)に限られます。VLESSやHysteria 2は扱えないため、Shadowsocks以外の方式のサーバーには繋げません。iOS 17以降が必要です。
用途別の選び方
| こういう人 | 選ぶもの |
|---|---|
| とりあえず1本だけ買っておきたい | Shadowrocket |
| まず無料で試したい | sing-box MT |
| PCやルーターとClash設定を共有したい | Stash |
| 設定ファイルをテキストで管理したい | Quantumult X / Loon |
| SS/SSRのサーバーしか持っていない | Potatso |
「SS/SSRに対応しているか」だけでは選べない理由
2018年当時、このページでは「SSとSSRの両方に対応していること」をアプリ選びの条件に挙げていました。いまはこの基準だけでは足りません。
素のShadowsocksは、2021年11月から動き出したGFWの「完全に暗号化されたトラフィック」検知の対象になりました。ただし、接続の先頭バイトの見え方を変える対策は2022年1月以降に主要な実装へ取り込まれており、USENIX Security 2023の報告では、これを入れた実装は2023年2月の時点でも有効だと報告されていました。Shadowsocksが通るかどうかは、使っている実装が対策に追随しているかで変わります。
一方でSSR(ShadowsocksR)については、元の開発者による開発は2017年に止まり、いまあえて選ぶ理由はありません。早見表に並べたVLESS+REALITYやHysteria 2・TUICは、Shadowsocksの後継ではなく、設計の異なる別系統の選択肢です。詳しくはShadowsocksが今も通る条件で扱っています。
つまりクライアントを選ぶ基準は「SSという名前に対応しているか」ではなく、使うサービスやサーバーの方式に合っていて、更新が続いているかです。早見表で対応プロトコルを並べたのは、手元の方式と照らし合わせるためです。
更新が止まったアプリはこの観点で真っ先に脱落します。たとえばPotatso 2は、最後の更新が2017年12月のバージョン2.9.0のまま止まっています。配信自体は続いていますが、いま500円を払う対象ではありません。
契約先によって選択肢は変わる
どのアプリを選べるかは、アプリ側ではなく契約先の方式で決まります。
- 自前のVPSにサーバーを立てている — 好きなクライアントを選べます。この記事の早見表がそのまま判断材料になります
- サブスクリプションURLを配るプロバイダーを使っている — 同じく好きなクライアントを選べます
- UCSS(中国向けプラン)を使っている — 公式アプリ(iPhoneは「UCSS for Apple」)のみです。サードパーティアプリという選択肢自体がありません。App Storeの検索には出てこないため、入手は公式アプリの入手と設定の手順から進めてください
UCSSが公式アプリに一本化したのは、サブスクリプションURLが外部に流出して不正利用される経路を塞ぐためだと考えられます。利用者から見て狭まったのは、使うアプリを選ぶ自由です。UCSSは公式アプリでしか使えないため、他社の契約とShadowrocketなど1本のアプリにまとめて切り替える使い方はできません。
なお、接続ルールについては、UCSSは公式FAQで、中国のIPだけはアクセスしないといったルールや、IPやドメインを基にした接続ルールを自由に設定できると説明しています。iPhoneの公式アプリ(UCSS for Apple)の画面で選べるのは、全通信をサーバー経由にする「グローバル」と、中国のIPを迂回してサーバーへ接続する「スマートルーティング」の2つのモードです。
料金は安い部類ではなく、長期向けのStandard以上は選んだ通信量が上限になり、無料のお試し期間もありません。料金の安さを最優先するなら、他社のほうが条件は良くなります。
一方で、公式アプリはログインするだけで接続でき、サブスクリプションURLの貼り替えも暗号化方式の指定も不要です。中身は開発初期から採用しているShadowsocksで、公式FAQでは、HTTPに似せたパケットへの偽装とWireGuardと同じAEAD(認証付き暗号)で通信を保護していると説明しています。中国向けのプランは全サーバーが国際専用回線を通ります。設定で詰まりたくない、回線の品質にお金を払いたい、という判断であれば噛み合います。
UCSS公式アプリのセットアップ手順(iPhone・iPad・Mac・Windows)に、デバイス別の手順とつまずきやすい箇所をまとめてあります。
よくある質問
Q1. Shadowrocketを買えばUCSSで使えますか?
使えません。UCSSの中国向けプランはサブスクリプションURLの提供を終了しており、読み込ませるURLがそもそも発行されません。UCSSを契約している、または契約を検討しているなら、Shadowrocketを買う必要はありません。
Q2. 中国に着いてからアプリを買えますか?
この記事で挙げた6本はいずれも中国のApp Storeで配信されていません。中国のApple IDでは購入も再ダウンロードもできないため、渡航前に日本のApple IDで入手しておいてください。
Q3. 無料のアプリで足りますか?
プロトコルの対応範囲だけを見るなら、sing-box MTで足ります。有料アプリとの差が出るのはルーティングの書きやすさ、通信ログの見やすさ、ウィジェットやオンデマンド接続といった運用面です。まずsing-box MTで繋がることを確認し、不足を感じたら有料に移る順序が無駄になりません。
2018年当時の記録
初版で取り上げたのは、Shadowrocket・Potatso 2・Potatso Lite・Quantumultの4本でした。当時のスクリーンショットを残しておきます。




この4本のうち、そのまま残っているのはShadowrocketだけです。Quantumultは日本のApp Storeで配信が確認できず、後継のQuantumult Xに置き換わりました。Potatso Liteは無料の「Potatso」に統合され、Potatso 2は2017年12月の更新を最後に止まっています。
まとめ
iOSのプロキシクライアントは、「SS/SSRに対応しているか」だけで横並びに比べても決まりません。契約しているサービスやサーバーの方式に合っていて、更新が続いているアプリを選ぶのが確実です。
1本だけ選ぶならShadowrocket、まず無料で試すならsing-box MT、Clash設定を持ち込むならStash、という整理になります。いずれも中国のApp Storeにはないため、入手は渡航前に済ませてください。
そしてUCSSを使うなら、この記事のアプリ選びは関係ありません。UCSS公式アプリの設定手順のほうを見てください。
