VPNの基礎知識

中国でVPNが繋がらない理由と、原因を絞り込む手順

2018年2月1日

中国でVPNが繋がらなくなる原因は、一つではありません。GFW(グレートファイアウォール)が通信を止める方法は大きく3系統に分かれ、どれに当たっているかで打つ手が変わります。

2017年1月には工業和信息化部が、許可なく専用線(VPNを含む)を構築・賃借して越境業務を行うことを禁じる通知を出し、VPNへの取り締まりが強まりました。2026年4月にも新たな取り締まりが報じられ、「いつでも繋がる」を掲げていた翻牆アプリLetsVPNが中国大陸向けの業務終了を発表しています。

この記事では、VPN側から見た「なぜ繋がらないのか」を3系統に分けて整理し、手元の環境で原因を切り分ける手順と、回線を選び直すときの判断軸までをまとめます。GFWそのものの組織や設備の歴史は、GFWの運営体制と検閲の仕組みで扱っています。

なぜ繋がらないのか:GFWの主な遮断は3系統

中国の国際インターネット業務は、長く北京・上海・広州の3都市にある9つの国際通信業務出入口局が担ってきました。2024年7月には、南寧・青島・昆明・海口の4都市に計6局の設置が許可されています。

国外へ向かう通信は、この出入口の手前でGFWの検閲を受けます。VPNの通信が止められる仕組みは、次の3系統に分けると整理しやすくなります。

① DNS汚染
国外のドメインを問い合わせたときに、GFWが偽の応答を差し込みます。2021年の測定研究(Hoangら、USENIX Security 2021)では、9か月の観測でGFWのDNSフィルタにかかったドメインが約31万1千件確認されています。VPN事業者の公式サイトや、アプリがサーバー情報を取りに行くドメインが対象になると、接続以前の段階で止まります。
② IP・ポートの遮断
VPNサーバーのIPアドレスや待ち受けポートへの通信を落とします。2022年10月3日からは、TLSを使う回避ツール(trojan、V2Ray、Xray等)のサーバーが大規模に遮断されました。まず使用中のポートが止められ、ポートを変えて使い続けるとIPアドレスごと遮断された、と検閲研究グループのGFW Reportが報告しています。
③ プロトコル検知
通信の中身ではなく「形」を見て、VPNや暗号化プロキシだと判定します。OpenVPNについては、米国の通信事業者の協力を得た2022年の研究(Xueら、USENIX Security 2022)で、OpenVPN通信の85%超をほぼ誤検知なく識別でき、難読化された41構成のうち34構成も識別できたと示されています。GFWが同じ手法を使っているとは限りませんが、通信の形からOpenVPNを見分けられることを示す結果です。2021年11月6日ごろからは、ShadowsocksやVMessのような「全体が暗号化された通信」を検知する仕組みがGFWで稼働しました(Wuら、USENIX Security 2023)。

繋がったり切れたりするのは「検知後の一時遮断」の可能性

2023年の研究(Wuら)によると、完全暗号化通信の検知は、人気のデータセンターのIP範囲に向かう通信だけを対象に、接続の約26%を確率的に検査しています。

検知されると、その後120〜180秒間、同じ「端末のIP・サーバーのIP・ポート」の組み合わせの通信が落とされます。

「数分おきに途切れて、しばらくすると戻る」という症状は、この一時遮断で説明できることがあります。サーバーが落ちているとは限らないので、再接続を繰り返すより、プロトコルを変えて同じ症状が出るかを見る方が原因に近づけます。

PPTP・L2TP・OpenVPNが中国で不利な理由

PPTPはGRE(IPプロトコル番号47)とTCP 1723番、L2TP/IPsecはUDP 500番・4500番を使うなど、汎用のVPNプロトコルはポートやヘッダーに特徴がそのまま出ます。暗号化していても「VPNの通信である」こと自体は隠れません。

OpenVPNも前述のとおり、識別できることが研究で示されています。各プロトコルの中国での扱いはプロトコル別の中国での注意点にまとめています。

遮断が強まる時期

遮断は一年中同じ強さではありません。新しい遮断手法の稼働や大規模な遮断が、政治的に重要な会議の直前に重なった例は少なくとも3回あります。

2017年10月
第19回党大会。8月には国家インターネット情報弁公室がタオバオなど5サイトに違法なVPNの削除を命じるなど、党大会に向けて締め付けが続きました(出典:Freedom House「China Media Bulletin」No.121)。
2021年11月
11月6日ごろから完全暗号化通信の検知が始まりました。11月8〜11日に開かれた政治会議(六中全会)の直前です(出典:Wuら、USENIX Security 2023)。
2022年10月
10月3日からTLS系回避ツールの大規模遮断。10月16日開幕の第20回党大会の直前です(出典:GFW Report)。
2026年4月
一部地域の通信事業者が、ネットワーク内のVPNを洗い出して遮断するよう求められたと報じられました。28日にはLetsVPNが中国大陸向けの業務終了を発表し、5月に通常運営を再開したものの、中国での利用可能性は保証できないとしています(出典:ABC News 2026年6月4日)。

2017年の大規模規制で何が起きたか

2017年1月の工業和信息化部の通知(工信部信管函〔2017〕32号)は、許可なく専用線(VPNを含む)を構築・賃借して越境業務を行うことを禁じ、2018年3月末までを取り締まり期間としました。

7月初めには国内で人気のあったGreenVPNがサービスを終了し、同月29日にはAppleが中国のApp StoreからVPNアプリを削除しています。

自分の環境で原因を切り分ける手順

同じ「繋がらない」でも、原因が端末側か、回線側か、GFW側かで対処が変わります。症状から疑う原因を絞り、表の確認方法で裏を取ってください。

症状 疑う原因 確認方法
アプリにログインできない・サーバー一覧が出ない ①DNS汚染、公式ドメインの遮断 事業者が案内している中国向けの別ドメイン(ミラー)で同じ操作をする。ミラーで通れば、公式ドメインのDNS汚染か遮断が疑われる
「接続中」のまま先に進まない ②IP・ポートの遮断 同じ事業者の別サーバー・別ポートで繋がるか試す
繋がるが数分おきに途切れ、少し待つと戻る ③プロトコル検知後の一時遮断 プロトコルを変えて同じ症状が出るか見る
TCP系の方式は繋がるが、UDP系(WireGuard・Hysteria 2など)だけ繋がらない、または極端に遅い UDPへの制限(回線事業者による長時間のUDP通信の遮断・減速、QUICのサイト名検閲など) 同じサーバーでTCP系の方式に切り替えて比べる。UDP系のままポートを変えて戻るなら、ポート単位の制限が疑われる
繋がっているのに一部のサイトだけ開かない 端末のDNSリーク VPN接続中にDNSリークテストを行う
VPNを使っていない状態で、一部のサイトだけ「接続がリセットされました」(Chrome系ブラウザの表示。ERR_CONNECTION_RESET)と出る サイト名(SNI)を見た検閲。GFWが偽のリセット信号を差し込んでいると考えられる VPNに接続して同じサイトが開くか確かめる。開けば、VPNの不調ではなく、そのサイト自体が検閲されていると考えられる
Wi-Fiでは駄目でモバイルデータなら繋がる(逆も) Wi-Fi側の制限(ルーター・社内やホテルのネットワーク)、回線事業者・地域による遮断の差 電信・聯通・移動を切り替えて比べる
繋がるが夜だけ極端に遅い 国際回線の混雑 昼と夜で速度を測って比べる
全サーバー・全プロトコルで同時に不通 大規模な遮断の強化 政治日程と照らし合わせ、事業者のお知らせを確認する

確かめる順番は、手間が少なく結果がはっきり出るものからです。

  1. 端末側を先に潰す:アプリの更新、端末の時刻のずれ、DNSリークの有無
  2. 回線を変える:Wi-Fiとモバイルデータ、可能なら別の回線事業者
  3. サーバーとポートを変える:同じ事業者の別地域・別ポート
  4. プロトコルを変える:汎用VPNから難読化・TLS系へ
  5. 時期と照らし合わせる:重要会議の前後なら、数日待つことも選択肢

DNSリークはVPNアプリや端末の設定の問題で、GFWのDNS汚染とは別物です。確認方法はDNSリークのテスト手順と対策にまとめています。

「接続がリセットされました」は、①〜③とは別の、サイト名を読み取る検閲で出る症状です。HTTPSでも、接続の最初に送るサイト名(SNI)は通常暗号化されておらず、GFWはこれを見て対象のサイトなら偽のリセット信号を差し込みます(GFW Report、2020年)。

VPNを使う前の回線でこの表示が出るなら、VPNの不調ではなく、そのサイト自体が検閲されていると考えられます。

UDP系の方式だけが不調な場合は、原因が一つとは限りません。サイト名を読み取る検閲は、UDPで動く方式にも及んでいます。2024年4月7日からは、GFWがQUIC(UDPで動く通信方式。Hysteria 2もこれを使う)の最初のパケットを復号してサイト名を読み、対象なら同じ送信元IPアドレスから同じサーバー・ポートへのUDP通信を3分間落とす検閲が確認されています(Zohaibら、USENIX Security 2025)。なお、同じ論文によると、Hysteria 2.6.2以降にはこの検閲を避ける仕組みが標準で入っています。

また、Hysteriaの公式ドキュメントには、中国の利用者から「回線事業者が長く続くUDP通信を遮断・減速する」という報告があり、その制限は使っているポートだけに及ぶことが多いと書かれています。

遮断の強さは地域や回線事業者によって異なることがあります。河南省では2023年8月ごろから、省外へ出る通信の一部を独自に検閲する地域レベルの仕組みが報告され、研究でも確認されています(GFW Report、IEEE S&P 2025)。電信・聯通・移動の国際経路の違いは中国の光回線と国際経路の比較で解説しています。

回線を選び直す判断軸

切り分けの結果「GFW側で止められている」と分かったら、設定で粘るより回線そのものを選び直す方が早い場合があります。中国から安定して使えるVPNが少ないのは、次の条件を満たすのに費用と運用の手間がかかるためと考えられます。

経路:一般のインターネット回線か、専用線か
一般のVPNは国際出入口を通るため、前述の3系統の対象になりえます。中国と国外を結ぶ国際専用線は一般のインターネットと分かれた経路のため、GFWの検閲を受けにくい構造と考えられます。ただし専用線は帯域の費用が高く、料金に跳ね返ります。
プロトコル:汎用VPNしか選べないか
OpenVPN・WireGuard・L2TPのような汎用プロトコルしか選べないサービスは、③のプロトコル検知に弱いと考えられます。
遮断後の対応:IPの入れ替えと告知
②のIP遮断は、サーバーのIPを入れ替えれば一時的に回復します。ただ、同じプロトコルのままなら新しいIPも再び遮断されることがあります。IPv4アドレスは世界的に枯渇しており、入れ替え用のIPを確保し続けること自体が費用になります。遮断時にお知らせを出すか、公式サイトのミラー(中国から開ける別ドメイン)を用意しているかも、運用体制を見る手がかりです。

この判断軸で見たときのUCSS
日本のIPを使いたい方に管理人が案内しているのはUCSSです。公式サイトには「全サーバーに規制を受けない国際専用回線を採用」と明記されており、上の判断軸では「経路」に投資しているサービスにあたります。

一方で、料金は一般的なVPNより高く(Standardの12ヶ月プランで108ドルから)、Standardは月間の通信量に上限(50GBから選択)があり、無料のお試しもありません。通信量の多い方は上限の大きいプランが必要になり、料金が上がります。まず無料で試したい方には向きません。

他の選択肢と並べて比べたい方は、中国で使えるVPNを料金と安定性で比べた結果をどうぞ。

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